化学は「丸暗記系」と「導出系」の2種に分けて暗記しよう

「化学は暗記科目だ。」 こういう趣旨の発言をする受験生はたくさんいる。

それは部分的には正しい。

たとえば金属錯イオンの色は説明が難しく、1つ1つ暗記しなければならない。

他にも、頭に叩き込まなければならない知識が化学には山のように存在する。

だが、全てがそのような「暗記するしかない」知識なのだろうか。 答えはNOである。

中には、頭に叩き込むのではなく理由とともに体系的に学ぶことのできる知識もあるのだ。

今回は、化学における暗記のあり方について説明する。 どういう知識は丸暗記するしかなく、どういう知識は暗記しなくてもよいのか。

以下を読めば、それを適切に判別でき、賢く化学を学習していける。

二種類の「知識」

化学そのものの詳細な話に入る前に、「知識」の種類について説明する。

何でもかんでも丸暗記すれば良い、というわけではなく、種類に応じて適切な勉強法があるのだ。

丸暗記系

通常「知識」と聞いて多くの人が想像するのは「丸暗記」タイプである。

丸暗記タイプというのは、明確な理由づけを与えられないため、そのまま素直に暗記するしかない知識のことである。

例として、歴史上の事件名が挙げられる。 たとえば「加藤高明」という人物が日本史で登場するが、この人物名や業績はそのまま暗記するしかない。

「なぜこの人物は加藤高明という名前なんだろうか…」と悩むのは無意味であるとすぐに理解できるに違いない。

語呂合わせという手段はあるが、それは覚えやすくする手段にすぎず、理由づけができないという本質は変わっていないことに注意しよう。

化学で言えば、たとえば錯イオンの色がこれに該当する。

テトラアクア銅(II)イオンは青色をしているが、これの理由づけを与えるのは難しい。

大学以降の化学の知識があれば説明可能だが、高校化学の範囲ではそれは叶わない。

したがって、理由を考えずにそのまま知識として覚えるしかないのだ。 有機化合物の命名法も同様だ。

呼び名というのは人間が定義したものであるから、暗記を回避するうまい方法は存在しない。

かといって暗記を怠っていると、化合物名が文章中に登場した時にそれを理解できない。

したがって、こういう知識も頭に入れざるを得ないのだ。 このように、効率的・体系的な方法がなく単純に暗記するしかないタイプが、「知識」の1つのあり方である。

「導出系」の知識

一方、丸暗記をせずとも他の原理・法則などから導ける知識も存在する。

たとえば化学平衡に関する暗記事項で次のようなものがある。

平衡状態において、反応系の温度を下げたとする。

このとき、平衡は発熱反応の方向に移動する。 これを単一の暗記事項として覚えている人がいたら、それは賢い方法ではない。

というのも、この根底には次のような原理があるからだ。

平衡移動の原理(Le Chatelierの原理) 一般に、可逆反応が平衡状態にあるとき、その条件(濃度、圧力、温度など)を変化させると、条件変化の影響を和らげる向きに反応が進み、新たな平衡状態になる。啓林館の教科書「化学」より

この原理は、外的要因によって反応環境が変化しても、その影響が緩和されるという負のフィードバック機構を持っていることを示している。

平衡移動の原理に従うと、反応系の温度を下げるとそれを打ち消す方向、つまり温度を上げる方向に平衡が移動する。

つまり、発熱反応の方向に平衡が移動するのである。

しかも、平衡移動の原理は温度のみならず圧力や体積についても同様に適用できる

であるならば、わざわざ温度の場合に絞って暗記する必要などない。

平衡移動の原理のみを頭に入れておき、あとはそれを応用した方が便利で効率的なのは明らかだ。

さらにいえば、平衡移動の原理自体もある意味当然のことを主張している。

もし変化を増幅する方向に平衡が移動してしまったら、反応が暴走して世の中が大変なことになってしまう。

だが実際にはそんなことは起こり得ない。

したがって、変化が和らぐ方向に平衡が移動するのは当然のことなのだ。

そう考えると、化学平衡あたりの分野の暗記事項は少ないことがわかる。

このように、ある知識を起点としてそこから導いていけるような知識もある。

導出系」といったのは、それ単体で覚えずとも他の大きな原理や法則から導けるからだ。

このタイプの知識は、いくつかのまとまりに分けて体系的に覚えることができる。

各々を独立した知識として覚えるよりもずっと簡単で、しかも忘れにくいのだ。

「知識」を丸暗記系と導出系に分別しよう

化学は暗記することだらけだが、だからといって何でもかんでも真っ正面から暗記するというのは賢い策ではない。

一旦冷静になってその知識を「丸暗記系」と「導出系」の2種類に分けてみよう。

丸暗記系の知識は、我慢して1個1個頭に入れていく他ない。

だが導出系の知識は、おおもとの原理・法則を1つ見つけ出せばあとは暗記する必要がなくなるのだ。

このように分別しておけば、化学における暗記を可能な限り効率的で平易なものにできる。

何も考えずに全てを暗記するというのは、却って自分を苦しめる行為なのだ。

うまく暗記事項を整理整頓して、スムーズに学習する準備をしよう。

参考までに例を挙げておくと、

  • イオンの色、化合物の名前と構造式、気体の製造方法など:丸暗記系
  • 電気陰性度など元素の性質、化学平衡、構造決定など:導出系

といった感じである。 大まかな傾向としては、理論化学の内容は暗記事項がかなり少なく、導出系に属する。 一方無機化学や有機化学は全体的に暗記しなければならない知識が多く、丸暗記系に属するといえる。

丸暗記系の知識の勉強法

知識には大きく分けて2種類あることがわかった。 次は、各々に適した勉強法を見ていこう。 まずは「丸暗記系」からだ。

真面目はNG?

丸暗記系ということは、素直に暗記するしかない。

だったら工夫の余地などないのではないか?と多くの受験生は思うに違いない。

しかし、大真面目に全ての知識を1個ずつ暗記していくというのは誤った判断だ。

確かに、少ない原理・法則で全てを説明するというのは無理である。

しかし、だからといって英単語を覚えるように暗記カードに知識を書いてひたすら暗記…という方法がベストではないのだ。

丸暗記系の知識であっても、暗記の際に工夫の余地はたくさんある。 それを、具体的に分野を絞りつつ説明していこう。

色や形に関する知識

たとえば鉄(II)イオンや鉄(III)イオン、それに関連する錯イオンなどの色は一通り覚えておく必要がある。

実際、その知識がセンター試験で出題されたこともあるのだ。 別の例として硫黄を挙げてみる。

硫黄には斜方硫黄、ゴム状硫黄などの同素体があり、形状も異なっている。 硫黄の同素体も大学入試では頻出だ。

では、こうした色や形の知識を暗記する際、どのような勉強法が適しているであろうか。

一番やってはいけないのが「文章で覚える」ということである。

たとえば鉄イオンの色を覚える際に、次のようにまとめてあったらどうだろうか。

  • 鉄(II)イオンを含む水溶液にチオシアン酸カリウムを加えても、何も変化は起こらない。
  • しかし鉄(III)イオンを含む水溶液にチオシアン酸カリウムを加えると、血赤色の溶液に変化する。

この文章が教科書のそのまま載っていたら、受験生は快くは思わない。 それはなぜか。

答えは簡単で、写真がないからである。 色の話をしているのだから、実際に写真で色を確認した方が理解が深まるし、どういう色なのか実感が湧くというものだ。

さらに、図を見た方が一般的に知識が頭に残りやすい。

上のようにただ文章が書いてあるのみでは不明瞭だし、学習意欲も削がれるのは確実だ。

したがって、色や形に関して学ぶ時は、写真(図)を使った方がよいことがわかる。

受験勉強では教科書をないがしろにする人がいるが、それは明らかに誤りだ。

教科書や資料集の図を参考にしながら勉強することを忘れないようにしよう。

化合物の名前と構造式

化合物の名称や構造を覚えるのにも一苦労だ

理論化学・無機化学では無縁の話かもしれないが、有機化学では物質名に悩まされる受験生が多い。

芳香族化合物、糖、アミノ酸… 登場する物質は山のように存在する。 基本的な方針が「暗記」であることは確かだ。

だが、どの物質名や構造もそのまま暗記するのは簡単な話ではない。 ある程度は効率化を図りたいところである。

では、物質名や構造式を効率的に学習する方法は何だろうか。 それを考えるために、次の2つの覚え方を比較してほしい。

  1. 有機化合物の名前と構造式を、アイウエオ順に覚える。
  2. 有機化合物の名前と構造式を、鎖式→環式→芳香族→高分子の順に覚える。

どちらが賢い覚え方か?と問われたら、2番だと誰でも答えられよう。

あくまでアイウエオ順は例として挙げただけだが、なぜこの覚え方は良くないのか。

それは、発展性のない順番だからである。 アイウエオ順というのは命名の結果生じた順番であり、その化合物の性質とは関係がない。

したがって、単純に辞書的に配列しただけであり、受験勉強をする上でのご利益は期待できないのだ。

一方、鎖式→環式→芳香族→高分子という順で覚えるのはそれよりずっと効率が良い。

鎖式、環式、…というのは化合物の構造を基にした分類であるため、グループごとに共通した性質があるのだ。

たとえば鎖式であれば、分子が大きくなるほど沸点が高くなったり、二重結合や三重結合があると反応性が高くなったり、という具合である。

アイウエオ順だともちろんそんな規則はなく、全てごちゃ混ぜになっている。

ここまで来れば、物質の名前や構造式は、構造を基に分類して覚えた方が発展性があるのである。

ここでいう発展性というのは、物質の性質や反応と絡めて学習しやすい、という意である。

丸暗記系の知識の覚え方

というわけで、丸暗記系といえど何も考えずに暗記するのはあまりに非効率なのである。

覚え方のコツを一旦まとめると次のようになる。

  • イオンの色や物質の形など:図表を使って暗記
  • 物質の名前や構造など:構造ごとに分類して暗記

暗記すること自体は避けられないが、このような工夫の余地は残されている。

工夫をした方が知識同士の繋がりも見えてくるし、何より忘れにくいのだ。

導出系の知識の覚え方

次は「導出系」の知識を暗記する方法を見ていく。 大きな原理・法則から導けるぶん、単純な暗記の苦しみは少ない。

心がけるべきこと

先ほど例に挙げた平衡移動の原理で言えば、反応系の変化を和らげる方向に平衡が移動するということさえ知っていれば、温度や圧力が変化した際に平衡がどう移動するのかその場で導けるのであった。

このように導出系の知識は、個々の知識を独立したものとして暗記するわけではないので、特に理系の受験生にとっては基本的に楽なものだ。

だが、それはあくまで暗記量に着目した場合の話であり、楽なことばかりではないのを忘れないように。

暗記が少なくて済むぶん、その原理を正確に理解していることが要求されるのだ。

平衡移動の原理でいえば、そもそも化学平衡がどういう状態なのかを分かっていないことには意味がない。

そうでないと「平衡が移動する」というフレーズの意味が理解できず、問題も解けないためである。

化学平衡というのは、可逆的な反応のスピードが釣り合っている状態のことである。

巨視的に見たら変化していないというだけであって、全く反応していないわけではないのだ。

このように、導出系の知識は根底にある概念の正確な理解が前提となる。 そういう意味では、丸暗記系と異なり始めの苦労が多いと言える。

イオンの色は暗記すればすぐに点に結びつくが、この場合そううまくは行かないので注意しよう。

結果を出すことを焦らずに、1つ1つの概念を着実に理解することを優先するよう心がけてほしい。

まずは教科書

では、導出系の知識の勉強法に入る。 繰り返しになるが、このタイプの知識は基礎概念の確実な理解が要求されている。

したがって、何も理解していない状態でいきなり問題演習をしても意味がない。

「ああ、解けなかった。」という感想が残ってそれで終わりである。

最低限の知識を手に入れてからでないと問題を解くべきではない。

したがって、最初にすべきことは「教科書を読む」である。

特に理論化学の分野を丁寧に読もう。 理論化学の内容は、なにも理論化学でしか役に立たないわけではない。

元素の性質、状態方程式、電気分解、平衡、… ここで学習する内容は、化学全般で要求されるものばかりである。

無機化学や有機化学の暗記にばかり目がいってしまうが、最初に丁寧に学習すべきなのは絶対に理論化学なのだ。

化学で必要となる概念を習得するには、まず教科書の理論化学分野を熟読しよう。 必要に応じて資料集や図表を活用するとなお良い。

習熟度の評価方法としては、たとえば「蒸気圧」「理想気体と実在気体」のように重要キーワードを挙げて、それを自分の言葉で説明できるか否かを基準とすると良い。

読んで理解できればOKではなく、自分から説明する力が大切である。

問題演習にあたり

おおよその内容が定着したら、早速問題演習に入ろう。

導出系の問題演習をする際の勉強法を述べる。

基礎概念をチェックする上で、大切なのはここでも理論化学である。

市販の問題集やセンター試験の過去問で、理論化学の問題を解いてみると良い。

問題を解くことで、大学入試で要求されている知識レベルがいかほどなのかを知ることができる。

また、自分では理解していたつもりでも実は不十分だった、と気づくきっかけにもなる。

留意すべきは、「なんとなく」問題を解かないことである。 記号問題であれば適当に選んでも正解できる可能性があるが、なぜそれが正解なのかを説明できる必要があるのだ。

仮に答えがあっていたとしても、正しい理由をもとに正解できたのか、それとも偶然当たってしまったのかを判別するよう心がけよう。

もしたまたま正解だっただけなら、バツにしても良い。 理解の甘い箇所を見つけ次第、教科書に戻って復習しよう。

それを元に、自分なりの論理で答えを導き出してみる。 これにより、「なんとなく」ではない解答力を養えるのだ。

基礎概念の定着をさらにストレートに確認したいのであれば、問題集の巻末などにしばしば載っている「論述問題」を解くと良い。

たとえば「セミナー化学」の巻末には豊富な論述問題が掲載されている。

論述であるため、択一問題と違ってごまかしが利かない。 格好の学習教材となるに違いない。

そのあたりの問題を苦労なく解けるようになったら、どんどん難しい問題に着手してよい頃合いだ。 ここまでくれば暗記で苦しむことはなくなっている。

まとめ

知識を「丸暗記系」と「導出系」に二分し、各々の勉強法を説明した。

化学では暗記事項が多いのは事実だ。 しかし、何もかも暗記しなければならないわけではない。

自分なりの工夫を凝らせば、山のような知識もずっと覚えやすくなるのだ。

知識のタイプに応じて柔軟に暗記し、化学の知識を確かなものにしていこう。

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