無機化学の勉強法・覚え方は?1つ1つの暗記はやめよう
2017年01月01日 | 化学
無機化学では、覚えなければならないことが余りにたくさんある。 それゆえ暗記科目という印象を抱きがちである。 暗記事項が多くて手に負えず、点数を取れない受験生も多いことだろう。 しかし、正しい考え方・手順を踏めば効率よく学ぶことができる。 今回は、無機化学の賢い覚え方・勉強法を説明していく。
無機化学とはどのような分野か
細かい勉強法の話に入る前に、そもそも無機化学という分野について知っておこう。 学習内容な何なのか、他分野との関係、大学入試での重要性などについて概説する。
無機化学の学習内容
無機化学は、理論化学・有機化学と並んで化学の3分野の1つである。 学校の授業で扱うのは次のような内容だ。
- 非金属元素と周期表
- 典型元素
- 遷移元素
- 生活と無機物質
啓林館の教科書「化学」目次より
「非金属元素と周期表」では、周期表と元素の性質や非金属元素の単体・化合物の性質を学ぶ。
たとえばハロゲンの話題であれば、まずハロゲンの種類(フッ素、塩素、臭素、…)を、次いで塩化水素のような化合物を扱う。
硫黄であればまずは単体や同素体、ついで硫化水素、二酸化硫黄、硫酸…とどんどん新しい物質が登場し、学ぶ知識量が多くなっている。
「典型金属元素」では、私たちの身近に存在するナトリウムやアルミニウムなどの典型金属元素を扱う。
こちらも先ほど同様、単体の性質のみならず化合物にも触れる。
ナトリウムであれば、水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムを扱い、アンモニアソーダ法まで話は拡大する。
「遷移元素」では、鉄や銅といった遷移元素の性質を勉強する。
遷移元素の大きな特徴は、イオンや沈殿の色が多様にあるという点である。
したがって、水溶液の色や沈殿の有無・色についての知識がたくさん出てくる。
大学受験生にとっては辛い箇所であり、暗記の面では山場といってよい。
「生活と無機物質」ではここまで学習した内容の実生活における応用を見る。
合金やセラミックスといった物質がメインだ。
無機化学の特徴:暗記事項が多い
無機化学の学習内容を紹介したが、どういう印象を抱いただろうか。
きっと、「覚えるのが面倒なものばかりだな」と思ったに違いない。
その通りだ。
無機化学では、暗記しなければならない事項が余りに多い。
一つの元素、たとえば窒素をとっても
- N2単体の性質
- アンモニアの性質
- ハーバー・ボッシュ法
- 二酸化窒素の性質
- 硝酸の性質
- …
と様々だ。 また鉄だったら
- 単体の性質
- 鉄(II)イオンの色や沈殿
- 鉄(III)イオンの色や沈殿
- コロイド
- 各種酸化鉄の性質
- …
とこちらも目が眩む。 暗記事項の多さが無機化学の特徴だ。
しかも、暗記事項の多くは真面目に暗記するしかない。 たとえば鉄(III)イオンの水溶液の色は黄褐色だが、これの理由を与えるのは難しい。
大学以降の化学では可能だが、高校生の段階では覚えるほかないのである。 また、知識同士の繋がりも薄い。
「アンモニアは水に溶けやすい」、という知識と「一酸化窒素は水に溶けにくい」という知識の間には関係がなく、各々を別のものとして覚える必要がある。
もし有機化学であれば、「水は沸点が高い」というのと「メタンは沸点が低い」という知識は関連して覚えることができるが、無機ではそうは行かないのである。
暗記に苦しめられるというのが無機の最大の特徴だ。
賢く暗記するには
前の章では、無機化学の学習内容や特徴について説明した。
では、大量の暗記事項にどう立ち向かうか。 ここでは、一般的な暗記について3種類に分けてそれぞれ効率的かどうか説明していく。
細かい勉強法に入る前に、暗記の方法について抽象的に考えてみよう。
それ単体で暗記する
暗記といっても、いくつかの方法が考えられる。
第一に、歴史上の人物名のように独立した知識として覚えるというものだ。
人物名は論理的に導き出せるものではないので、そのまま暗記する他ない。
それと同じように、各々を独立に暗記していくのである。
ある意味一番単純な暗記法である。 だが、これには欠点がある。
それは、知識同士の繋がりがなく、効率が悪いということである。
効率が悪いというのは、単純に覚えにくいのと忘れやすいという2つの意味がある。
知識がバラバラなので、一つ一つを覚えるのにも苦労するし、忘れないように抱え込んでおくのも努力が必要だ。
単純ではあるが色々な意味で苦労する暗記法である。
関連させて覚える
次に、知識同士を関連させて覚えるという方法を示す。
「関連させる」の意味がわかりにくいだろうから、例を用いて説明する。
たとえば、prospectとexpectという2つの英単語は共通した語根-spectを持っている。
-spectは「見る」という意味であり、これら2つの単語の意味はここから自然と推測できる。
他にもspectacleやinspectといった語も関係している。
つまり、-spectという語根を覚えておけば、複数の英単語を関連させて覚えることが可能なのだ。
このように、ある共通事項を起点として複数の知識を結びつけるという工夫が可能だ。
これにより知識がバラバラでなくなるので、暗記しやすくなるし忘れにくくなる。
仮に知識群のうち1つを忘れてしまっても、他の知識を手掛かりに思い出すことができるというわけだ。
上の例で言えば、prospectの意味を忘れてもinspect、expectから類推できる。
共通事項で知識を結びつけて覚える。 これは、知識を独立させて覚えるよりも効率的である。
一つ注意点としては、その「共通事項」を見つけるのが大変な点である。
最初にあげた方法は、何も考えずにひたすら暗記すればよかった。
だがこの方法は、複数の知識の共通点を見出す作業が前提となっている。
したがって、暗記できる知識に制約が生じるし、知識同士を関連させるのが面倒なので注意しよう。
図・写真で覚える
3つめは、図や写真で覚えるというものだ。
知識には様々な種類があるが、無機でいうと例えば水溶液や沈殿の色はこの方法で覚えることができる。
要は、資料集や図説を眺めて覚えるということだ。
教科書のように文章形式になっている教材だと、モチベーションを保って読み続けるのは簡単な話ではない。
だが、資料集のように図が多めであれば、視覚的にも楽しんで読めるので、勉強する気が起こる。
しかも、色や形というのは文章でダラダラ説明されるよりも一度図を見た方が早く理解できるに決まっている。
したがって、色・形に関する知識は資料集を用いて勉強することを非常に強く勧める。
特に無機ではイオンの色などをたくさん覚える必要があるので、資料集は必ず用意しておこう。
図表で学ぶことの欠点は、どうしても文章に触れる機会が減るということだ。
たとえばイオンの色ばかり勉強していると、「二酸化窒素は水に溶けるか?」ということを忘れることがある。
あるいは「なぜ濃硫酸は脱水作用があるのか」といった「理由」に関係する知識は吸収できない。
図表だからこそ効率よく学べる知識があるのは確かだが、一方で文章だからこそ理解できる内容も確実に存在する。
学習にあたっては、その配分が偏らないように留意しよう。
分野ごとの効果的な勉強法・覚え方
暗記の仕方を大きく3つに分けて紹介した。
なんでもかんでも単独の知識としてバカ真面目に暗記するのは非効率的であり、それでは大学入試を突破できない。
暗記のやり方を3種類紹介したがそれぞれ長所と短所を持っているので、分野に応じて適切に変化させていく必要がある。
次は、いよいよ分野別の勉強法を説明していく。
これを読んで早速自分の勉強に応用してみよう。
非金属元素と周期表
この章では、とにかく世の中に存在する元素の種類を把握することが先決だ。
元素を知らないことにはのちの内容に進みようがない。
そして、次に各々の元素の単体の性質を理由とともに知ろう。
「理由とともに」というのが重要なポイントだ。
「フッ素は電気陰性度が高い」という知識を丸覚えしてしまっては、その理由がわからないし他の元素に応用できなくなる。
この場合、電子配置と絡めて性質を説明できると良い。
このように、元素の性質を決める主役は電子配置である。
K殻、L殻、M殻、…という軌道の名前を始めとして、各々にいくつ電子が入るのか、どういう配置だと安定なのかを概念的に理解しよう。
たとえば次のような問題を自分で考えて答えを出せるようになれれば良い。
<例題> フッ素の電気陰性度が高いのはなぜか。 <解答例> フッ素はM軌道に7個の電子を持っている。 あと1個電子が加わればM殻が電子で満たされて閉殻となる。 つまり電子を得ると大きく安定化するので、フッ素は電気陰性度が高い。
これはシンプルな問題だが、様々な単体の基本的な性質を自分で理由とともに説明できるようになろう。
そうすることで、大学入試、少なくともセンター試験レベルの内容は簡単に攻略できる。
単体の性質が終わったら、二酸化硫黄や硝酸など、多くのバリエーションの化合物を扱うことになる。
それぞれについて性質、主な反応、製造法といった知識を覚えなければならない。
だが、落胆する必要はない。
大学入試で必要な知識のレベルは、せいぜい学校教科書程度なのだ。
大学受験用の参考書は、こだわり方によっては際限なく難しくなる。
しかし、そうしたものに着手して細かい知識の全てを詰め込む必要などないのだ。
教科書に載っているレベルの性質を数点インプットしておけばよい。
それらの全てに理由を与えられる訳ではないが、自分の知識で理由を説明できるものについてはその練習をした方がなおよい。
大学受験の化学では、教科書の内容を丁寧に身につけることが王道である。
典型金属元素
金属が絡むと、無機化学は途端に面倒になる。
だが、典型金属元素についてはさほど大変でもない。
日常生活で登場する物質も多いし、物質の性質も予測可能であることが多い。
たとえばNaOHという物質が強塩基であることは、Naの電子配置を知っていれば当たり前の話だ。
さらにいえばNaの電子配置は原子番号からすぐに組み立てられるのでこれも覚える必要がない。
ここまでの例を見てわかると思うが、こうした物質の性質は、理由を高校化学の範囲で説明できることが多いのである。
理由とともに学んだ方が納得がいくし、忘れる可能性も低い。
その知識を忘れてしまっても、他の知識の類推で補うことが可能だ。
仮に反応を覚えるにしても、基本的な反応だけを知っていれば良い。
たとえば三価のクロムイオンが六価のイオンになるときの反応式などを覚えておけば、それを他の反応式と合わせることで反応式を作成することができるのだ。
典型金属の範囲内では、イオンの酸化・還元を覚えておけば十分である。
次に説明する遷移元素では暗記しなければならないことがどうしても多いので、典型金属元素ではなるべく暗記量を減らす方針にした方がバランスが良い。
遷移元素
遷移元素の大きな特徴は、イオンや錯イオンの色など、丸覚えしなければならない知識が非常に多い点である。
遷移元素は錯イオンという複雑な状態のイオンを作るが、この錯イオンの色は物質の電子配置が密接に関係している。
大学レベルの化学の知識を使えば説明できる領域もあるが、高校生までの範囲でそれを学ぶのは無理であり、そこについては暗記せざるを得ない。
たとえばテトラアンミン銅(II)イオンは深青色だが、これは説明することができない。
したがって歴史上の人物同様、そういうものとして受け入れ暗記することが要求される。
特に「色」と「沈殿」に関する情報量が多い。 これに苦しんで無機に対する印象を悪くしている受験生さえいる。
確かに、そういった項目は暗記するほかない。
だが、教科書の文章や表を読んでいるだけではどうしても頭に入りにくいし、モチベーションの低下も起こる。
そこで、色や沈殿は先述の通り図を見て覚えることを強く推奨する。
イオンの色を覚えるとしたら、「テトラアンミン銅(II)イオンは深青色」という文章を見せられるよりも実際に水溶液の色を見た方が圧倒的に良い。
「なるほど、こういう色なのか!」とすぐに納得できるし、絵で覚えているので忘れる可能性もかなり低くなる。
印象に残りやすくなるので、受験勉強には大変適した勉強法である。
もちろん文章を読むことも欠かせないが、色などの知識は目で理解した方が手っ取り早い。
教科書の図を見ても構わないし、資料集を使ってもOK。
とにかく図表を活用するのが命だ。
生活と無機物質
「生活と無機物質」は、大学入試でメインの出題内容となることはない。
発展的な話題として、ここまで学んできた物質が実生活でどう活用されているかを学ぶのがこの章の趣旨である。
ただ、重要な内容というのも少し存在する。
たとえばメッキの話。
トタンとブリキはともにメッキと呼べるが、その違いはどこにあるのか。
それを化学の力で説明することができる。
このように、今までの無機化学で登場した知識を使っている箇所は必見だ。
そういう内容は試験に出題されることが多い。
センター試験やその他大学入試でも問われる可能性は十分にある。
ただ単に暗記するしかない地味な知識については、受験勉強に余裕ができるまでノータッチでも構わない。
時間的に・内容的に余裕が出てきたら勉強する、という程度の姿勢で臨もう。
まとめ
無機化学の特徴と、効率的な覚え方・勉強法を説明した。
物質の性質を決める重要な要因は「電子配置」である。
電子配置に関する確かな知識があれば、多くの物質の性質をその場で導き出すことが可能だ。
したがって、各々の物質の性質をいちいち丸暗記するのではなく、多くの場合に通用する重要な概念から勉強することをお勧めする。
それにより、無機化学を効率的に・体系的に勉強できるし、試験でも得点しやすい。
ただひたすら暗記する勉強はもうやめよう。
基本法則から着実に、でも効率よく学んでいくことで、無機化学の得点力を大きく伸ばそう。
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